和楽な着物暮らし

冬はトンビに角袖コート!!

 冬の着物暮らしにはかかせない防寒着、「とんび」と「角袖コート」。この個性の違う2つの外套を、社中員でとんび派・角袖派を豪語する二人にその魅力と活用法などを聞いてみた。


■日本でとんび、角袖コートはいつ頃から着ていた?

角袖派のじゃん。普段着には落ち着いた角袖が最適と推す。

角袖派、以下(角):今の冬の防寒着といえばコート(外套)だけど、昔日本人の上着といえば羽織をだったんだよね。

とんび派、以下(と):そう、だから昔の写真に出てくる人は、みんな長羽織を着てるね。それが幕末になって外国からコートが伝わってきた。で明治維新以後、インテリとかハイカラな人が洋服を着始めた。日本にとんびが入って来たのもその頃だ。その頃はインバネスって言って、とんびって呼び出したのは明治17年ごろから。

(角):インバネスコート、つまりとんびを好んだのは着物派の人たちで、その人達なりに和魂洋才だったのかな。

(と):どうかな?日本人って結構自分達に合うものを取り入れるのが上手だしね。着物に靴とか、着物にシャツを合わせるみたいな、どっちかっていうとハイカラだったんじゃないかな。



■大正時代は、実はトンビが多数派だった?

トンビ派のゆう。とんびの個性的ないでたちがおすすめ。

角:映画なんか見てると、大正昭和あたりではとんびは柄の悪い人が着てるね。高利貸しとかちょっとヤクザな人たちとか…。

ト:ちょっとしたステータスだったんだよ洋服は。間違っても貧乏書生にゃ着れない。時代が違えば俺らだって着れてないと思うよ。今じゃ着物のほうが高い世の中になったけどね。

角:今和次郎のモデルノロヂオに載ってる、大正11年新橋駅での調査では、男性45人中8人がトンビ、角袖は3人という結果が出ている。この頃は圧倒的にトンビ派が多いね。ちなみに羽織は34人、ほとんど残り全員だけど。

ト:この頃にはもう角袖があったと。角袖はインバネスよりもっと時代が進んでから、洋風コートを着物型に改良したものだ。ハイカラというよりは着物に近い、着物風コートというべきもの。だからトンビのように見た感じも強烈なものはなく、普通だよね。

角:トンビが個性派じゃなくて、多数派だった時代に行ってみたい!そりゃあすごい風景だと思うよ。やっぱり日本人は、いろんな文化を自分なりに取り入れるのがうまいってことだね。



■実際に着てみた。着心地はどうなの?

袖の感じこうなってます。マントを肩にかけた感じ。

対談が白熱する2人。どっちが「七和三洋」?

角:トンビは袖のところがなくてケープ型になっているけど、実際の着心地はどうなの?

ト:着物を着るとき、袂がある着物の形にあってる。動くときなんかはこうやってバサっとやってどけて平気に動ける。袖つきだと生地が厚くなってごわつくけど、これはごわつかない。これで原付にも乗るよ。

角:風がバタつかない?

ト:めっちゃバタつくよそんなの。ある意味こいつ飛ぶんじゃないかってくらいバタつく。 トンビだもんで、へっちゃら。風も跳ね返すくらいこの重さもいい。あったかいんだこの重さがあるのが。

角:素材が厚手のウールだし、裏地も分厚いしね。木綿の蒲団じゃないとスースーして嫌!みたいな。まあ革着てると思えばいいかも。ボアも付いててあったかいし。角袖でバイクはちょっと寒いかもね。生地的に普通だから。自転車くらいならいいな。



■大正時代は、実はトンビが多数派だった?

とんびの襟に付いたタグ。大丸呉服店、味わいのあるデザイン。戦前のものだ。

角:角袖の着心地は、まさしくコートと変わらない。洋服を着ている現代人には、違和感感じないと思うよ。

ト:新しく作ったものだから、当然といえば当然。こんびはこう、首のとこがきちっと絞められて良い。

角:外ではいいけど、最近は暖房をがんがんかけてる場所が多いから、首が絞まると暑いときがあるよ。その点、角袖の開襟(かいきん)なら開いてラフに来ても品があるし、普通に着物のえりが見えるのがいい。トンビだと下に何着てるかわからないでしょ。

ト:トンビはトンビだからいいんだよ。着物じゃない、トンビ。別モンでしょ。

角:だから角袖のほうが「七和三洋」なんだって。あくまで着物を損ねてない、日本風のアレンジだから。世界にこんなデザインないでしょ?必要ない。日本だから生まれた形なんだ。

ト:日本に「ちょっと洋風」を取り入れるのが昔のモダンなんだよ。それも「七和三洋」。和風じゃなくて和があって、それに洋風を取り入れた先人の「七和三洋」なんだ。



■大正時代は、実はトンビが多数派だった?

とんびの襟に付いたタグ。大丸呉服店、味わいのあるデザイン。戦前のものだ。

ト:見た目のインパクトと機能性、ちょっと洋を取り入れた昔の日本人のハイカラ精神とインテリ感がトンビには備わっている。新しく作るんじゃなく和と洋が偶然出会って絶妙なハーモニーを生み出した、そういうロマンがある。それを羽織ると古きよき時代まるごとまとってる感じがとんびにはある。

角:角袖の形はやっぱり着物だよね。シルエットとか。えりが開襟になってたり。羽織とは趣きが違うけど、着物のような感覚で着られるのがいい。マフラーもできるし。お店なんかで暑いときはえり開けたりで。とにかく自然に着られるのがいい。

ト:トンビはもうこれ100年前のデザインなんだよ。社中の誰かが100年持つ家を作る!とか言ってるけど、素材の耐久性だけじゃなくデザインも普遍的なものでなければ100年持たせるのは絶対不可能。今の洋服じゃ数年後には型遅れで着れなくなっちゃう。100年間変わらないデザインなんてもの、世の中そうそう出会えない。そういう意味でもすごいんだよ。

角:たしかに社中で扱うとんびも戦前〜最近のものまであるけど、形がまったく一緒だもんね。部分的な改良とか、微妙な違いとかあってもおかしくないのに一切ない。そういう意味で完成されたデザインといえるものだね。

ト:そう。若い子が着ててもまあいいんだけど、こんなのを初老のおじさんが着てたらダンディーだと思うよ。できればおじいさんになっても着続けてほしい。そうすればもっと風格でてきて格好いい、本当に似合う男になってくると思う。どう?トンビのすごさがわかった?トンビのこの重さは時代の重さなんだよ。

角:そうかー?!…やっぱり俺は角袖でいいよ(笑)    おしまい



▲「とんび」…スコットランド北部地方のインバネスの地名から名付けられたケープ付き外套。日本には幕末明治ごろに最初に輸入され、「とんび」の愛称で親しまれる。

▲「角袖コート」
…洋装のシングルコート(ステンカラーコート)の袖に袂をつけたデザインの、一般的な和装外套。歴史は、おそらく洋服の外套が輸入されだした明治以降、日本で着物用に改良され出回った。


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